戦慄の旋律

五十代くらいの関西人で、子供の頃、土曜日の19時半からの30分枠で『部長刑事』というドラマがあったのを覚えている人は多いでしょうね。なんでかといえば、オープニングの音楽にトラウマ級の恐怖を感じていたから。確かに怖かった。

タイトルバック、ショスタコーヴィッチの交響曲第5番『革命』第四楽章の冒頭部分、続いて出演者やスタッフのロールが流れる時のオドロオドロしいゆったり三拍子の曲…武市昌久さんというかたの作曲らしいが確証はない。ラスト、赤色灯のアップで終了。

恐怖はこの三拍子の曲に依るほうが大きいのではないか?って気がしてる。確かにショスタコーヴィッチ部分が重厚で印象強いので=怖い曲というのが定着してしまったのか…

 

ショスタコーヴィッチはスターリン圧政下のソ連の作曲家。当局からの革命礼賛曲のオファーで取りかかったのがこの第5交響曲とのこと。クラシック作曲家にとって交響曲の5番は、ベートーベンの『運命』以降特別な意味を含んでいるものらしい。

スターリンが何をしていたかを知っていたショスタコーヴィッチにしたら難しい仕事だったでしょう。反逆心もある、でも、拒否は粛清。で、作曲家は最高の答えを出した。曲は大絶賛され、とりあえず身の安全は保たれた。

しかし、ほぅとは思いつつもひっかかる何かが…漠然とだけど、よくわからないけど

「旋律がなんか“いびつ”」

メロディーをどう感じるかは聴き手一人ひとり違うでしょうが、子供の頃から感じていた微細な違和感、変感、妙(みょう)感。

後年、作曲家は

「強制された歓喜

とはっきり答え合わせしてくれていた。

パズルがはまった。一聴、歓喜にも、どこかいびつにも聴こえる旋律を産み出した創造力は、表現する事のカッコ良さを証明したように感じた。

 

キツい状況下での表現活動は苦悩と共にあり、表現者は苦悩を餌にするタフさも必要なのでしょう。マゾヒスティックに…