女帝
子猫はケージ内に5匹いた。きょうだい猫。
知人の里親募集のSNS掲載用の写真撮影に付き合い、実物を見た。猫キャリーバッグ持参…見るだけのはずなのに。
その場の管理者らしき初老婦人
「どの子にする?皆健康よ!」
ちょっと待って!飼うと決めた訳ではないのに~。
しかし…5匹全部は無理、うーん、迷っている。
「泣く泣くも 良い方を取る 形見分け」
小学生高学年だったか、僕の人間観形成期に知った川柳がフラッシュバックしてなんかイヤな気持ちになった。エラブナンテアサマシイ…
もちろん形見なんかじゃない、
どの子も可愛いに決まってる!
キジトラ3匹、クロ2匹から一匹ずつ…
自分の留守中も寂しくないようにとの想いでキジトラの男の子とクロの女の子を連れて帰った。複数飼い…
知人は「いいの?」と言いつつ、予定通りといった表情か!?
キジトラくんは[モコ]
クロちゃんは[ペペ]
翌日の健康診断に備え名付けたが、男女逆で診察券登録してしまった。
まあいいか、ジェンダーフリーの時代やし。
古いフランス映画『望郷』の原題、主人公の名「ペペ·ル·モコ」から。
健康に問題なし。
仕事時間は自分で調整できるので、なるべく家に居る間を作る。離乳食まであと二週間くらい、との目算をして。当初は休みを取って事にあたる。
オシッコもウンチもしてくれた。
必死!充実!幸福!
素晴らしい4日間だった。
買い物に出た
ほんの二時間のあいだに
ペペちゃん
死んでいた。
なんで?
座布団に埋もれていた。「よく寝てる」と思い、しばらくはそのまま…
モコくんはよちよち歩いている。
ん?
ようやく異変に気付き、あわててお腹が波打つほど人工呼吸を試みるも、動かない。「なんとか奇跡!」を願い駆け込んだ病院にて死亡確認。「赤ちゃん猫にはあること」と慰められる。
アホが調子に乗って単身で複数飼い。
後悔、後悔しかない。買い物に行かなければ…座布団を別の場所に移していれば…そもそも複数飼わなければ…
しかしアホの思考は解らんもんで、モコには相棒が必要!との思い込みが抜けず、先の知人に経緯を話し、もう一匹引き取りたい旨を伝え、段取りしてもらう。
「この前はゴメンね~」となぜか言う御婦人、先日の譲渡の際の初老婦人の娘さんで“弱い猫”を渡したと申し訳ながってらっしゃる。「いえ…」と僕。
個人で保護活動しているらしく、その邸宅内に保護猫用のスペースが、そんなに広くはないが(三畳程)確保されていて、大人猫3匹、子猫4匹がいた。キジトラ、シロ、ミケ、クロ2、シロクロマダラ、チャトラ。子猫は皆、モコと同時期産まれ。
クロは避けよう、ペペを思い出す。
うーん、ミケかなぁ?と決心する間際、よたよたと這い出てきた[サビ]っ子、大人用の猫缶をペロペロしてる。
「この子!」
一瞬で決まった。
女の子、どの猫とも血縁はないみたいで、少し孤立気味だとのこと。
サビ猫…“神秘柄”とも“雑巾柄”とも呼ばれ、好き嫌いがあるか。柄で差別はしないが、性格的特徴はあるように思う。
サビは気難しい…の噂は聞いたことがあるが、それは後日思い知らされる。
名前は[ルウ]
「ペペ·ル·モコ」の真ん中の“ル”
知人が「良いセンス」と褒めてくれた。
落ち込んでいられなかった。